2024.07.01

“学べる会社”って、何だ。
【トップインタビュー vol.7】

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フロットでは、旧田宮グループの時代から数十年にわたり、人材育成に力を注いできた。そして、2024年1月1日の新フロット誕生を経て、2024年度からはリベラルアーツの視点を取り入れ、人材育成のさらなる強化を試みはじめた。

“フロットを学べる会社にしたい”と志向する阿部和人 代表取締役に、フロットの人材育成についてたっぷり語っていただいた。


「人の力」に秘められたチカラ。

今後十数年単位という長期視点で人材育成に注力していこうとしているフロットだが、そうした考えに至る背景には、そもそもフロットが今どんな状況・環境に置かれ、どんな考え方が根底にあるのか。「人の力」について改めて深く考えさせられることになった。

 

阿部社長:
「これまでは、私たちが得意としてきた印刷物そのものが、お客様の課題解決になってきましたが、お客様の課題は時代とともに多岐にわたり、課題解決の方法やツールも多様化してきました。
約3年続いた新型コロナウィルス禍で、世の中が急激に変化したことも、そうした多様化に拍車をかけたと考えます。
こうした混沌とした時期においては、課題解決以上に課題発見が重要になるでしょう。お客様は、何が根本的な課題なのかにたどり着けていない場合が多々あり、そうしたお客様に寄り添いながら課題発見ができるようになるためには、設備の力ではなく、“人の力”が求められます」

「そして、この人の力は、自社の課題発見にも、役に立ちます」



そこには「人の力」を、顧客はもとより、自社の課題発見〜解決にも活用していこうという視点がある。人材育成に注力しようという阿部社長の決意の理由は、明快だ。
「組織風土に根づくまで、何十年と粘り強く人材育成に取り組んでいこうと思っています。私の代が終わっても、ということですね」という阿部社長の言葉は、それほどまでにこの先、人材育成に注力・投資していこうとする並々ならぬ決意の表れだろう。


ひとりの人間としての成長。

では、どんな目的・考え方に基づいて、フロットの人材育成は実践されているのだろうか。人材育成における基本思想という核心に触れながら、フロットの人材育成についてさらに深掘りする形で語っていただいた。

 

阿部社長:
「フロットでは、経営理念の『私達は働き甲斐のある企業を目指します』の3番目に『成長』を掲げており、この“成長”とは人間的成長を意味しています。
たとえば印刷技能検定1級の国家資格を取得したとすると、仕事や会社、印刷業界では通用しますが、家庭・地域では全く通用しません。そうした時に、仕事と家庭・地域で通用するものは何なのかというと、それがこの経営理念に書かれてある人間的成長の部分です」

「仕事を通して人間的成長を積み重ねた社員が、家庭・地域に帰れば、その力を自然に発揮する。そうすれば、会社から離れたところでも、さらに人間的成長ができ、仕事と家庭・地域の両面から良いスパイラルに入っていけると思っています」



つまり、阿部社長によれば、人材育成は社会教育活動でもあるという。そして、これが企業の人材育成のあるべき姿なのだという。さらに、オン・オフの切り替え・区切りはもちろん大事だと前置きしながらも、「一人の人間として働けばよいと思う」とも……。

一人の人間としてどのようなアプローチで、どんなふうに成長していきたいのか。そうした高い意識が、人材育成のもう一方の主体である社員にも求められているのではないだろうか。


スキルの向上を図る人材育成。

実際にフロットでは、どんな人材育成が実践されているのだろうか。特徴的な仕組みや取り組みについて、阿部社長から聞き出すことができた。まずその一つが、「方針に基づく力量表の仕組みを用いた人材育成」だ。仕組みは、こうだ。

①新しい方針を考察する。
②方針を実践するために必要なスキルを洗い出す。
③必要なスキルを力量表へ追加する。
④力量表から、個々の社員が個人目標の設定を行う。
⑤個人目標達成に向けてOJT・OFFJTを計画・実行する。


「力量表」そのものは、各部門・課ごとに業務に必要なスキルが、レベル1〜4まで約60項目用意されており、レベル1は一般職、レベル2は主任・係長職、レベル3は課長職、レベル4は部長職という設定で、レベル2までで業務に必要なスキルを習得するようになっており、レベル3ではマネジメント寄りの項目、レベル4では経営寄りの項目が入っている。
そして、方針に沿って毎年度新しく必要なスキル項目を入れ込んでいき、めざす方針の方向に少しずつ向かわせていく。



阿部社長:
「方針に基づく力量表の仕組みを用いた人材育成が、フロットの人材育成のいちばんの特徴でしょう。
世の中の流れが変われば、お客様のニーズも変わってくる。当然フロットの中期経営方針や単年度経営方針、各部門方針が少しずつ変わっていきます。
この方針に沿って、個々の社員が必要なスキルを一つずつ身につけていき、個人の成長と同時に組織全体の成長を図っていきます」




この「方針に基づく力量表の仕組みを用いた人材育成」は、先述した「人間的成長」とは異なり、実務そのもののスキルを向上させるための人材育成になる。そして、もう一つ。特徴的な取り組みの一つが、「管理職研修」だという。



阿部社長:
「管理職研修を実施している企業は、中小企業では少ないと思われます。多くの中小企業では、いつのまにか管理職になって、管理職とは何をするのかについて誰も教えてくれないまま管理職に就いているというのが現状ではないでしょうか。
中小企業では圧倒的にプレイングマネージャーが多い中で、『管理の基本』『管理の展開』『目標による管理』という管理の基本を学べることは、フロットの人材育成の特徴になります」




この「管理職研修」は、90分間の講義とディスカッションから構成されているが、自社の顧客企業や同業企業といった地域の取引先の管理職人材もお招きしている。こうした地域の方々と共に成長していこうとする企業姿勢は、経営理念の3番目で「私達は地域に役に立つ企業を目指します」と掲げるフロットらしさの表れだろう。

特徴的な人材育成については、さらに熱を帯びてつづく。


意識改革の重要性。

阿部社長:
「業務以外で、組織または個人に、いかに刺激を与えることができるかだと思います」




「委員会活動への参加」「社内プロジェクトにおけるプロジェクトマネジメントの経験」「インターンシップの担当」をさせることで、社員の自己成長を促していこうと企図している点もまた、フロットの人材育成の特徴だ。これらのプロセスの中で、「意識改革(変革)」までも促すのだという。



阿部社長:
「意識改革というのは、「固定観念」と「行動様式」をシフトすることです。それは、広い考え方と新しいやり方と言い換えることができます」

「固定観念を断ち切って、新しい価値観を受け入れて、新しいチャレンジをしてみる。それをずっとやっていると、それがその人の普通になっていきます」



ちなみに阿部社長は、「委員会」「社内プロジェクトマネジメント」「インターンシップ」には一切口出ししないと肝に銘じている。それは、意識改革にブレーキをかけてしまわないようにするためだ。
阿部社長の言う「意識改革」は、もっと平易な言葉で言えば、「工夫」ではないだろうか。考え方や捉え方を変えてみる。新しいやり方を試みる。それは、まさに私たちが子供の頃から促されてきた工夫だ。しかも、工夫する人・できる人は、どんどん成長する。工夫を無意識にできれば、これほど強力な武器はない。

そして、人材育成の話は、いよいよここからリベラルアーツへと移る。


もう一つの力・スキルを。

フロットでは、2024年度初めに発表の経営方針と同時にリリースされた「人材育成方針」において「リベラルアーツ」の考え方を取り入れ、社員の人間的成長の機会を積極的に創出していくことが宣言された。
ここで言うリベラルアーツとは、単に「教養教育」という意味にとどまらず、グローバル社会に対応する人材教育に必要不可欠な教育であり、考える引き出しを増やして人生を豊かにしていく学びでもあり、「変化しつづける世の中と時代を生き抜くための力」を身につける学びになる。



阿部社長:
「先ほどお話しした『人間的成長』は、仕事を通してその機会を得ていくのが基本なのですが、仕事だけでは、もう難しいのではないかと感じてきていました。
フロットが社内推進するリベラルアーツの目的は、問題・課題の解決に必要なもう一つの力・スキルを養い磨くことで、学ぶべきことは現代社会のすべてが対象になります。
つまり、それは業務に必要とされるスキル(知識・技術・態度)や資格取得とは、少し離れたところにあります」




「方針に基づく力量表の仕組みを用いた人材育成」から、「委員会や社内プロジェクトマネジメントを通した人材育成」、そして「リベラルアーツによる人材育成」の関係性は、同心円状にひろがる3つの輪をイメージしてほしい。

阿部社長がつづける。



阿部社長:
「力量表による実務スキルUPの場。その外側に、委員会や社内プロジェクトマネジメントによる成長の場。さらにその外側に、もう一つ大きな成長の場があって、それがリベラルアーツによる人間的成長の場。
つまり、リベラルアーツは実務からどんどん離れていくんですが、人間的成長のためには、とても大切なことだと思っています」




まだまだ手探りということだが、このフロット版リベラルアーツの具体的な取り組みとして現時点では、「公的機関や各種団体のさまざまな社会問題等を取り上げるセミナーなどの参加費の実費負担」「公的機関などのミュージアム企画展観覧(休日も含む)の実費負担」が実行されている。

こうした重層的な人材育成を社内展開しながら、果たしてフロットはどこへ向かおうとしているのか。その答えは、阿部社長の言葉の中にあった。


学べる会社、刺激のある会社。

阿部社長:
「学べる会社にしたいんですよね。会社に行くと、昨日まで知らなかったことを知ることができる。まったく興味がなかったのに、やってみたら面白かったといったような。
そうしたことができる、そんなふうに思える会社・組織にしていきたいなと思っています」

「いろいろな刺激がある会社。
仕事以外のいろいろな刺激を受ける中で、自分の価値観がどんどん変化していき、成長していくということが、人材育成の根本だと思います」




阿部社長が言う「学べる」というのは、社員一人ひとりが仕事を通してその日1mmでも成長していると感じられることではないだろうか。企業が持続的に人材を育成し、企業もまた持続的に成長していくためには、この「学べる会社、刺激がある会社」というイメージこそが、これからの人材育成のベンチマークの一つになっていくだろう。
個人的には、こういう会社であれば、何よりも毎日が楽しいに違いないと勝手に想像してしまう。

 

 

少子高齢化による人材不足に加えて、終身雇用制度の衰退や働き方の多様化に伴う人材流動などを受けて、これから多くの企業にとって未曾有の人材難が立ちはだかろうとしている今。新戦力としての人材獲得と同じくらい、いやそれ以上に、人材育成は企業が持続的に成長していけるかどうかを左右するとまで言われている。

いまこそ企業は、人材に対して何ができるのか。そして企業は、人材のさらなる成長をどうサポートしていけるのか。フロットもまた一企業として日々自問し、考え、人材育成に取り組みつづけながら、一人ひとりの社員―人材と共に歩み、共に成長していかなければならない。

 


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経営理念

阿部和⼈(あべかずひと)/株式会社フロット 代表取締役

⼭形県大石田町⽣まれ。1988年⽥宮印刷株式会社へ⼊社。営業一筋。本社営業部⻑、仙台支店長、営業部門統括、常務取締役を経て、2019年6⽉⽥宮印刷株式会社および株式会社フロットの代表取締役社⻑に就任。多趣味。